あまり知られていないフランスの教育制度②――クラス・アメナジェについて

パリ暮らし
リストの楽曲「エステ荘の噴水」の舞台、エステ荘は、フランスではなく、ローマの郊外にあります。この噴水は音楽が奏でられる仕掛けとなっているんですよ。

Byドメストル美紀

夏空が広がるフランスよりボンジュール!

今回はフランスの「ちょっと素敵な教育制度」、クラス・アメナジェについてご紹介したいと思います。

クラス・アメナジェ


クラス・アメナジェ、正式名称は、classes à horaires aménagés 。ここでのaménagésは、「適応した」と訳したらよいのでしょうか。日本語に訳するのであれば、フレックス制度かな?(万美子先生、もっと適した訳があれば、お願いします!)

*Classes à horaires aménagés… の訳、難しいですね!
「時間割り調整されたクラス」って感じかしら?-まみこ

フランスでは略して「アメナジェ」と呼ばれているので、こちらでも、以下「アメナジェ」とします。

アメナジェという制度は、音楽・ダンス・演劇といった文化的な活動やスポーツに力を入れたい生徒が、学業とそれらの活動を両立しやすいように学校の時間割を調整してあげる、というもの。

小学校からアメナジェを採り入れている学校もありますが数は少なく、中学 (以下コレ―ジュcollege)の方が、アメナジェがある学校が多いように感じます。リセにもアメナジェはありますが、こちらもコレ―ジュよりは少ないような印象です。

例えば、音楽のアメナジェがあるコレ―ジュを検索すると378校のリストが上がってきます。

ここでは音楽のアメナジェについて、掘り下げてみたいと思います。

神童のための制度か

コンセルバトワールでは
質の良いグランドピアノを弾かせてもらえて有難いです

「音楽に集中できるための制度なんて、どうせそういう『特別な子』向けの制度でしょう?」と思わるかもしれませんが、違います。

アメナジェという制度は、「音楽に関心がある生徒に、音楽分野の特別なトレーニングを受けられる機会を与えるという目的で創設されている」そうです。(フランス国民教育省のサイトよりhttps://eduscol.education.fr/2335/education-musicale

小学校の段階では、セレクションもそう厳しくないこともあり、「うちの子、歌うのが好きみたいだから」「ピアノが好きだっていうから」という「軽め」な理由からアメナジェ枠を設けている小学校にお子様を通わせている方をわたしも幾人か知っています。

ただ、コレ―ジュ以降となると、ある程度の音楽的技量を求められているようです。学校に依っては非常に狭き門となっているとか。

それでも、アメナジェに通う生徒で「将来音楽の道に進みたい」と真剣に考えている人数は少なく、音楽は個人的な喜びのためにやっているだけで、リセに進んだら辞める、将来の職業に音楽は考えていない、という声をよく聴きます。

学業は軽視されたプログラムなのか

「フレックス時間割ということは、通常授業の時間が削られているってこと?」 と思われるかもしれませんが、これも違います。

授業数は変わらないけれど、時間割を動かして、まとまった時間を音楽活動に使えるように配慮されているのです。そのため、アメナジェ生は土曜日や学校休みに登校することもあるとか。

どのくらいの時間を音楽活動に充てるかというと、小学校では週3時間、コレ―ジュでは週7時間とのこと。リセ(高校)に至ると、特化する楽器や声楽のタイプに依ってその時間数も異なるようです。

音楽教育に関しては、各校、地域のコンセルバトワール(音楽院)などの専門機関とタイアップしており、そういった機関が受け持ちます。

なお学校の成績が一定レベル以下だとアメナジェに入れてもらうのは難しいようです。同様に、アメナジェを始めたけれど成績不振となった場合も、「アメナジェ辞めて学業を優先したら? 」と勧められるそう。

貧富・社会的属性は問わない

アメナジェ枠がある学校は公立校が多く、アメナジェ教育に関しては無料です(私立校のケースは不明)。よって貧困家庭でもアメナジェ制度に子供を入れることは可能で、貧富・社会的属性は問われない、という前提は真実です。

そうなのですが、学業と音楽活動の両立はやはり親のサポートなしでは難しく、たとえば幼い頃であれば、日中にコンセルバトワールへの送り迎えしなくてはならないでしょうし、楽器も、初めの頃は貸し出してくれるようですが、それ以降は各自楽器を保有していることが前提にあります。

もちろん、そこを乗り越える手段は幾らでもありますが、普通に考えると、ある程度の家計への負担を求められる、というのが現実でしょう。

ただ日本だと「高等な音楽教育 イコール 特別な人達のためのブルジョワな世界」と考え勝ちですが、そこまでの文化的な高さや富裕さは求められておらず、敷居は低いかな、という印象があります。

フランスと日本の教育の違い

今回は音楽のアメナジェについて掘り下げましたが、その他の文化分野としては、ダンス、演劇、そして美術に関してもアメナジェがあります。

スポーツ分野に関しては、水泳からアイス・スケート、柔道など、実に幅広い種目のアメナジェがあり、
そんな特殊なことを無料で、かつ専門家から学べるだなんて「フランスってなんて素敵なの?」 と目がキラキラしてしまいます。

ただ、一方でフランスと日本の学校教育を比べると、音楽・美術・体育といった科目の授業コマ数が、フランスは圧倒的に少ないという事実も併せてお伝えすべきかと。

たとえば音楽。
日本では公立の小学校であっても、各クラスにオルガンがあり小学教諭による伴奏付きで音楽の授業がありますが、フランスはそうではありません。

そもそもフランスの小学校は音楽の授業はないに等しく、よって楽器もほとんどなし。うちの子どもたちのときは、年に一度の授業参観日のために伴奏なしで童謡を歌っただけという年もありました。教科書すらないので、学校外でコンセルバトワールや音楽を学ぶ機会がない児童はドレミも読めないまま終わるのです。

中学でも、うちの子どもたちの学校においては、日本のように打楽器を叩くことも、アコーディオンを弾くこともなく(せめてピアニカでもあったらいいのに! )、また、エッチングや木版をさせてもらうこともなく終わりました。

体育の授業は以前よりは増えましたが日本に比べるとぐっと少な目です。日本のような運動会や体育祭はありません。盛り上がらないことったら。

フランスは小学校の時点から、バカロレアの主要科目に重点を置いたカリキュラムなのでしょう。盛り上がり、などどうでもよいという。
情操教育なんぞよりもバカロレア! というシビアで現実的なフランスの一面が鑑みられる教育プログラムなのです。

どっちが良いのか

万人に音楽、美術、そしてスポーツの基礎を教えてくれる日本と、やりたい子、向いている子には水準高い特別教育の機会を与えるフランス。どちらが良いのでしょう。

わたしは、日本での体育のせいで運動コンプレックスを持たされてしまった、と恨みがましく思っている一人です。実際のところ絶望的に運動神経が鈍いのですが、それでもわたしのペースでやらせてもらっていたら、もっと運動も好きになれたと思っています。これは万人に同じ教育を押し付けるスタイルがもたらすネガティブな面でしょう。

一方で多くのスポーツのルールを理解しているのは体育の授業のおかげでもあり。
音楽と美術に関しても、全くモノになっていないけれど、ああいう経験ができたのは良かった、と感謝しています。

フランスはというと、息子たちのフランスにおけるピアノ学習(アメナジェではなく、コレ―ジュから週に一回、コンセルバトワールに通っただけですが)を見てみましょう。

彼らはコレ―ジュ4年+リセ3年の計7年間、コンセルバトワールでしっかりソルフェージュを学び、選抜された一流の教授陣からレッスンを受け、毎年末には筆記・実技テストがあって、時にはコンクールに出て評価されて、という道を辿っています。教授もレベルに合わせて替わります。室内楽もオーケストラも経験します。そのたびに新しい刺激を受けてきました。

アメナジェであれば、より多くの時間を音楽に費やすのですから、より深く、リッチな音楽教育を得られるのでしょう。

フランス式も、日本式も、甲乙つけるのは難しいですね。

暴動のニュースを鑑みて

先日までフランスでは、17歳の少年が射殺されたことが引き金となった暴動が起きていました。暴徒の平均年齢は17歳だとか。必ずしも貧困層ではないようですが、この若者達の親は、子どもたちをアメナジェする、などという考えも知識もなかっただろう、というのは想像に容易く。

そう考えると、今フランスが必要としているのは、日本のような万人に対する情操教育なのかも。
以前のフランスならアメナジェで良かったけれど、移民は急増しているわけで、
アメナジェ制度があったところで、そんなの知らないし、価値わからないし、という親に育てられてしまった子供は、音楽も美術も知らず、スポーツマン精神もわからずに終わってしまうでしょう。

生きづらい社会を生きる、その力をもたらすのは、文化であり、スポーツであり。
教育はほんとに大切ですよね。

……などなど、書き始めると止まらなくなりそうなので、一旦〆ます。

次回はこんなに間を開けずに投稿しますね(自分に約束!)
夏バテなどされませぬよう、ご自愛くださいね!

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