フランスで今、売れている本といえば……。

フランス今週の時事コラム
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By ドメストル美紀


冒頭の写真はフランスで話題の ‘Le monde sans fin’ というコミック本の書影です。

バンデシネ(bande dessinée コミック本、フランスでは頭文字をとってBD⦅ベーデー⦆と呼びます)の著名な書き手であるクリストフ・ブラン氏と、エンジニアリングコンサルタントでありエネルギーと気候の専門家であり、教授、会議の講演者、作家、そして独立系のコラムニストという多岐に渡る肩書を持つジョン・マルク・ジョンコヴィシ氏による共著です。2021年10月に出版されて以来50万部以上読まれているというベストセラーでして、昨年度は、フランスで最も売れた本だそうです。

フランス人もコミック、BD(ベーデー)が大好き!

当書は、BDながら、至って真面目な内容。作者二人がナレーターとなり、歴史を省みながら、化石燃料の台頭の歴史や、それが気候にどのような影響を与えているか、自然は、経済は、未来は、人類は、というシビアな問題を、ユーモラスに、かつ分かりやすく描写しています。

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なぜ今回、唐突にも、このBDの話題を持ち出したのか。
あとでちゃんと繋げますので、ここで一旦この話は置いておいて、今度は、今のフランスについて話しましょう(これまた唐突!)。

ストはフランスのお家芸?!

最近のフランスでの話題といえば、年金改革です。先日もこの改革に反対する人たちによるゼネストがありました。

さて、ゼネストと申しましたが、スト知らずの日本の若い方は、この略語の意味すらもぼんやりしているのではないでしょうか。
ゼネストとは、General Strikeの略語で、「一国全体または一定地域の,多数の産業分野にわたる多数の労働者が、一致共同して経済的または政治的要求獲得のために行うストライキのこと」です。(世界大百科事典 第2版「ゼネスト」の解説、https://kotobank.jp/より)

今回の改革の焦点は、年金の支給開始年齢を現在の62歳から64歳に引き上げることにあります。
日本ではすでに65歳支給が主軸になっているので、「いまだに62歳だったの? 」、とうっかり口を滑らせ周りのフランス人に顰蹙(ひんしゅく)を買ってしまったわたしでした。

フランスも憂う、年金問題

そもそも年金システムに無理がある、と感じるのは、日本人であるわたしだけなのでしょうか。
公的年金は現役世代が収めた保険料を運用して年金受給者に回していくもの。でも日本では少子化が進んでいるし、運用といっても超低金利が約30年続いていて、どう考えても無理があるのでは? たとえ奇跡が起きて、現状の低金利、少子化が改善されることがあったとしても、昔のような大きな成長は望めないと思ってしまうのです。

フランスも楽観できない状況にあります。出生率に関しては欧州の優等生でしたが、それもこの10年はやや下り坂。金利に関しても低金利ですし、経済に関してもこの40年余りの成長率は日本とどっこいどっこい。見通しも明るくありません。

成長ありき、のシステム

ここで冒頭のBD(フランス語を学ぶ皆さんはベーデーと読んでくださいね) ‘Le monde sans fin’ に話を戻します。

当書では、わたしたちの住む世界はこの先どう変わっていくのか、歴史を省みながら考えていくのですが、その中で、経済を考察するページがあります。
今までは、経済成長があることを前提にシステムが構築されていた、と。然るは年金システムです。人口が、経済が、成長するから回るシステムだった、と。だけど、もうその時代は終わっていて、今までのような成長率は望めない。それなのに、政府はその推測に目を背けてきたのだ、と。

将来が怖くなりますね。でも、怖いついでにフランス在住の皆さんに、直近のもっと怖い話をしてもいいですか?

スト・スト・スト!

なんと、この先2月7日と11日にもゼネストが予定されているんですって。

皆で声を上げることは大切だと思うのですが、一方で交通機関が麻痺したり、学校が休みになったりするのは参っちゃいますよね。

それに、ストも、果たしてあと2回で終わるのか。

わたしが年金ストで思い出すのは、魔の2010年。あのときもしょっちゅうストがあった記憶が……、と調べみたら、なんと14回もあったようです。思わず表にしてしまいましたよ。人数もかなりの規模です。下方と上方計測の差に開きがあるのも毎度のこと。数を低く抑えたい勢力と、そうでない勢力のせめぎ合いという。
その中で、よく見るとバカンスの夏はストがないというのがフランスらしくて微笑ましく(!?)。

この2年後に当時のサルコジ政権は倒れるわけですが、年金改革が票集めの足かせとなったことは明白です。
ヨボヨボになるまで働きたくない。そんなことを提案する政府は倒せ、ということだったのでしょう。若い人は若い人で、「年寄りが引退しないと、仕事のポストが開かないから就職できないじゃないか」と焦る。

気持ちはわかる。めちゃくちゃわかりますよ。

でも、どうやって年金資金をひねり出せというの?
将来の年金システムは、どういう姿かたちをしているの? 日本もフランスも、いや先進国のほとんどは、とうの昔に成長期は過ぎていて、新たな展開があるとは思えないのだけど。

しっかり目を開いて

年金問題も大切ですが、今、地球は気候変動の真っただ中にいて、それに対して、社会は、技術は、人類は対応できるのか。わたしたちの生きるこの世界を、真にLe monde sans fin、終わりなき世界にすることは可能なのか。

そのための課題を説明しているこのBDが、フランスでベストセラーであることに、わたしはひと筋の希望を見出したいと思います。

まずは知ること。そして考えること、ですね!

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