フランス人の愛の伝え方

パリ暮らし
©Mihoparis

皆さんは、ご家族や恋人に、愛を言葉にして伝えていますか?

「言葉にはしていないけれど、態度や行動で示している相手はわかっていると思う」という方には、ぜひ続きを読んでいただきたいです。

以下のリストは、フランス人の一般的な「愛の言葉」です。これ、皆さんは照れずに言えるかな。

Mon amour(モン・ナムール)愛しい人よ
Mon ange(モン・ナンジュ)わたしの天使ちゃん
Ma biche(マ・ビッシュ)わたしの雌鹿ちゃん
Mon chaton(モン・シャトン)わたしの子猫ちゃん
Mon cœur(モン・キュール)わたしの心臓よ
Mon/Ma chéri(e)(モン/マ・シェリー)わたしの大切な人よ
Mon chou(モン・シュー)わたしのキャベツよ (なぜキャベツ?)
Ma poupée(マ・プぺ)わたしのお人形よ
Ma puce(マ・ピュース)わたしのノミちゃんよ (なぜノミ?)
Mon petit lapin(モン・ラパン)わたしのウサギさん
Mon trésor(モン・トレゾー)わたしの宝物よ
……エトセトラ、エトセトラ。

これらの言葉を耳にするのは、お母さんが子どもに対して使っているケースが多く、
うちの喜寿を迎えた義理の母も、孫だけでなく、もう熟年世代の子供達に対しても未だに「Ma Bichette、そのお皿取って」という風に呼びかけています。

カップル間の会話を聞く機会はなかなかないので実態は知り得ませんが、パートナーから電話があったときなど、「Oui, mon cheri」などと、フツーに応えている友を幾人も知っています。

枕詞のように「愛するものよ」と伝えるフランス人、それもこんなにバリエーションを持って。さすが、Amour(愛)の国です。

家事は愛、料理も愛

何故こんなことを考え始めたのかというと、家事、中でも料理について考えていたのです。
いきなり家事!? 愛の話じゃなかったの? と怪訝に思われることでしょう。

ワタクシ、色々考えたのですよ。
その行き着いたところが、「フランス人は愛を言葉で伝えるけれど、日本人は、愛を言葉ではなく行動で示すのではないか、そして行動というのは女性の場合は家事に集約されているのではないか」、という多分に突飛な結論なのです。

発端は、インスタグラムなどでお料理や家事について発信している日本の方々のアカウントを見たことです。その手順の多さやきめ細やかさに感心すると同時に、家事・料理は依然として女性が担っているのだろうし、日本の女性は大丈夫かしら、と気になってしまって。

フランスはどうかというと、普段の日の家事・料理はぐっと簡略化されています。家事はアウトソース、普段の夜ご飯は出来合いものや、サラダだけ、パスタだけ、という家庭も多いと思います。

「フランスではほとんどの女性は外で働いているからね」、ですか?
確かに、フランスの共働き率の高さはよく知られるところですが、実は日本の女性の就業率の方がフランスより高いそうですよ。(OECD諸国の女性(15~64歳)の就業率調査、2019年))

日本でも家事をもっと簡略化すればいいのに、そうしない。
それは何故なのか、と突き詰めて考えると、日本では「家事は愛情表現とされているから、ではないか」と思ったわけです。

コンビニおにぎりは「かわいそう」

「家事・料理=愛」という公式が典型的に表れているのがお弁当作りではないでしょうか。

以前、日本の友人がお嬢さんのためにおにぎりを作っているところに居合わせたことがあります。かれこれ20年近く前のことです。

日本にはおにぎり用の海苔がセロハンに包まれたものが売っているのですね。三角に握ったご飯をそれで包むと、コンビニのおにぎりみたいになるのです。日本の便利グッズの多様さに、
「こんなものがあるなんて、知らなかった!」
と感心すると、
「日本でもこれ知らない人多いみたいでさ。娘の友達がこのおにぎりを見て、『コンビニのおにぎりなの? かわいそう』って同情されたんだって」と友人は苦笑いしていました。

手作りでないおにぎりはかわいそう、という概念。

子ども達世代もそう思っている、そして、その気持ちが分かってしまう自分も、「縛られているなぁ」と痛感したものです。

朝早く起きて子どものために、お弁当を作ってあげるお母さん。これは愛なのですよ。

一時人気を博した「キャラ弁」も、子供を喜ばせたい親の愛の象徴だったと思います。個人的には、あれは過剰な愛ではないか、と思っていますが。

なぜ料理をするのか

そもそも、わたしたちはなぜ料理をするのでしょうね。

日本はお総菜屋さんにお弁当屋さん、デパ地下もあるし、レトルト食品も冷凍食品も充実している。

全く料理しなくとも問題ないのに、日本では「ご飯作らなきゃ」となるのは何故?

それは、やはり愛なのかな、と思うのです。

自分の作ったものを食べてもらいたい、と思う気持ち。それは愛をあげたい、という気持ちと同じなのではないかしら。

あと健康のため、節約のために料理する、というのも、家族を大切に思う、自分を大切に思う、ということですよね。

そう思うと、料理は愛情表現の一つなのだなぁ、と思うのです。

さらに、家事全般にも関しても同じことが言えるではないかしら。

洗濯も掃除も、家族が、自分が気持ちよく過ごせるようにしてあげたくて、する。

本人がそう思ってやっているだけならいいのですが、日本では、社会が女性に対して、「家事・料理をしっかりやってね、それでこそ一人前だぞ」と擦り込んでいるところもあるから話が捻じれてくる。
特に、今や日本でも多くの女性は仕事をしているのだから、かつての専業主婦のように家事・料理を完璧にこなすなんて無理です、無理。

Love Love 愛を叫ぼう♪

フランスの話をすると、家事に関しては、femme de ménage(家政婦)を雇っている家をよくみます。また、子ども達にsalon(居間)やsalle à manger (ダイニング)を使わせない家庭もあります。これは、掃除しなくていいように予防線を張っているのでしょう。

普段の夜ご飯は、パスタや、出来あいのグラタンを温めたものなど、一品料理がほとんど。パスタも、ベーコン、玉子で和えただけのカルボナーラとか、トマトソースだけ、とかそういう簡単なものです。
そこに市販のパテや、袋から出すだけの状態で売っているサラダ、チーズを加え、最後はヨーグルトやフルーツ(各自で剥きます)で締める。
なんとなくコース風になっていますが、至って簡素なのです。
で、食事が終われば、お皿を食洗器に入れて、オシマイ! となります。

小さな子供がいる家では、ヌヌ(ベビーシッター)さんが、子どものご飯を作って食べさせることも多いかと。

そこに主婦の罪悪感はあまりない。いや全くないという女性も多いと思う。

だからといって、彼女たちが、家族や自分を愛していないわけではありません。
家事や料理以外で愛を伝えているから、そこに拘らなくても大丈夫なのです。

どんな風に愛を伝えているかというと、まず冒頭に挙げた「愛の言葉集」を連発します。「 Mon trésor, 調子はどう?」「Mon coeur, お休み、ビズッ」といった具合です。

家事をアウトソースしたお陰で生まれる時間と気持ちのゆとりを、家族と過ごすため、自分のケアのために使います。「髪の毛振り乱して掃除機掛ける」のではなく、整った部屋で仕事で疲れた自分の気持ちも整えて、家族と向き合う。おのずと愛は育まれるでしょう。

料理は手抜きの分、食事の時はゆったりと会話を楽しむ余力が生まれます。キャンドルを灯したりして、向き合う二人。そりゃロマンティックな会話も生まれますよ。

ちなみに、週末やバカンスのときには、フランス人も張り切って料理しますよ。
そういうときも、
「あなたが好きな料理を作ってあげたのよ」
とアピールもしっかり。昭和の夫婦のように、奥さんが、旦那さんの好物を黙って食卓に出し、「お、旨い」と言われて微笑みを浮かべ喜ぶ、というけなげで受け身の愛ではないのです。

シンプルに、丁寧に、暮らそう

問題は、日本語の「愛している」「好きよ」という言葉にもあるのでしょう。
なかなか自然に出てこない言葉ですよね。
この言葉が使われ出したのは、明治の頃だと聞いています。それまでの日本には西洋的なLoveに匹敵する言葉がなかったそうです。

その代わりに、女性は愛を伝えるべく、甲斐甲斐しく料理をして、家を綺麗にしてきたのでしょう。
でも外で仕事もするようになった今となっては、それでは大変です。
ここはフランス人に見習って、家事&料理は「レッツ手抜き」でいきませんか。

いや、手抜きという言葉はよくないか。雑な響きがありますからね。
シンプル&丁寧に暮らす、いかがでしょう。

皆さん、いいですか。
家事はアウトソースする、それが難しいのなら、掃除ロボや家電をフル活用したり、家族で分担するのです。
料理は、一品だけでいいではないですか。その一品もシンプルでいい。材料に拘って、栄養にもこころを配る、それで十分ですよ。
小鉢やお汁がないと淋しいのであればインスタントに頼るなり、特別な日だけにするとか?
ご飯も無洗米を使うというのも思いのほか楽なものです。
果物は、皮つき、丸ごとでOKなみかんとか葡萄とか、そういうものオンリー。カットしなくてはならない果物は特別な日だけにする。
……とかとかとか。
工夫したら幾らでもアイデアは出てくると思います。

目指せ、シンプル&丁寧で、疲れない暮らし。

言葉で愛を伝えよう

おっと、大切なことを忘れていました。

「愛」これは言葉で伝えましょうよ。

「今日は一日どんな日だったの? あなたのことが知りたいの」
「わたし、あなたと過ごすこの時間が大好き」
「ご飯、一緒に頂くと美味しいね」

……こちらの方も考えてみれば、気恥ずかしくなく伝えられる言葉がたくさんありそう。
いえ、もちろん、フランス人に成りきって、モナムール~♡ でもいいんですよ~。
とにかく伝える。伝わっていることもしっかり確認する。
レッツ・フランス人で行きましょう!(????)

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