フランスの夫婦観 ①

パリ暮らし
パリ郊外にて、セーヌ川に浮かぶ白鳥

このところ、フランスにおける夫婦観について考えさせられております。
日本の夫婦観とは何かが違う、でもそれが何なのか、わからずに放置していたのですが、この機会に掘り下げてみました。

フランスの夫婦の情景から見えてきたことをシェアさせていただきますね。

マリアンが恐れていること

ことの発端はウォーキング仲間のマリアンのおしゃべりでした。彼女は、歩くスピードより口を動かすスビードの方が勝る元気いっぱいのアラフィフです。

あまり知られていないことですが、フランス人女性のおしゃべり好きなことったら。
あのソフトな声で、早口に、表情・ジェスチャー豊かに、ほんとによく喋ります。

また、これもあまり知られていないと思うのですが、フランス人女性は発声法が違うのでは? 息を吸うように話しているような印象です。(万美子先生、いかがでしょう)

どうでしょう〜 フランス人女性と男性の発声法の違いについては考えたことありませんでしたが…
フランス語は単語一つ一つに強弱や高低のアクセントが付く言語ではないので、落ち着いた地声の人が話してると、たまにお経のように聞こえなくもないかも〜と思ったことならあります!(全然関係ないか!)

そのためか、フランス人女性の声は、おしゃべりでも耳障りなことがなく、わたしは心地よいBGMのようにマリアンのおしゃべりを聞き流しています。
はい、傾聴しなくとも、ずっと話しているのでそこも楽だったりするのです。

最近のトピックは、もっぱらマリアンの友人エレノアさんの離婚バナシです。
わたしはエレノアさんと面識がないのですが、いや、ないからこそでしょう、マリアンはエレノアさんの離婚の全てをつぶさに語ります。

話し出すと足の方はスピードダウンしがちなマリアン、この話になると、立ち止まってしまうことも多くて、「ほら、歩いて!」と声かけながら、事の成り行きを耳半分で話を聞いてきたこの数週間でした。

要約すると、エレノアさんの浮気に旦那さんが気づいてしまい、離婚を迫られることになってしまった、というブラックコメディーのような話でして、
エレノアさんはそこまで覚悟はできていなかったからパニくっていたけれど、今はもう気持ちも落ち着いていて、親権は半々ということで承諾し、あとは財産分与のところで揉めているとのこと。

フランスでは、離婚したあとも共同親権が基本です。先進国の中で日本のように単独親権制度を取る国は稀です。ここにも、日本の不均衡な家族観が反映しているように感じます。
また、不倫や婚外恋愛は離婚の原因として認められますが、扱いが軽いというか、多額の慰謝料などは期待できないそうです。人の気持ちは制御できないから仕方がない、ということなのでしょう。

エレノアさんの離婚バナシに、マリアンは動揺しています。

「20年以上も結婚していたのに、『もう君のことを愛せない、別れよう』だなんてひどくない?」
いやいや、発端はエレノアさんの浮気でしょう? でもマリアンにわたしの声は届いていません。浮気や不倫に妙に寛容なフランス人気質がここでも見受けられます。

「どうする? この年でいきなり離婚したいなんて言われたら。ああ恐ろしい!」
とマリアンは自分の両腕をぎゅっと抱き、目は虚ろです。尋常でない様子にさすがのわたしも、ウォーキングの足を止めてマリアンの顔を覗き込み、
「あなた達夫婦は仲が良いから大丈夫だってば!」
と、言い聞かせます。

本当にそうなのです。マリアンのご主人ポールは、精神的に彼女に頼っているようなところもあるし、浮気とかしなさそうなタイプ。マリアンもポールを大切に思っているし、何を慌てているのでしょう。

でも、マリアンはまだ不安に囚われていて、
「ミキ、男はわからないわよ。エゴイストだから、妻に、母親(子供に対してだけでなく、夫に対しても)の役、友達の役、恋人の役、愛人の役全部求めてくるでしょ。ポールだってそうよ。最近は仕事がつまらないからってしなだれかかってきて、全く男らしくないの。ストレス太りしてカッコ悪いったら。それなのに、わたしがこういう格好(十分オシャレですけどね)していると、『緊張感がない女は嫌だ』とかいうのよ」

おお、ポールったら意外です。 優しいクマさんみたいな人なのに。

「そうよ、わたしたち女性は夫が年取って、『緊張感』なくゴロゴロしていても、禿げて太った姿になっても受け入れてあげるけれど、男は駄目なのよ。ミッドライフクライシスか何か知らないけど、ある日突然、『君のことを愛せない』とか言っちゃって別れるカップル、幾つも知ってる」

ふーむ、そういわれると、わたしもそういう話は聞いたことがあります。

夫婦で教会活動に勤しむ、「街の顔」のような存在だった二人のケース……

末っ子が大学進学して家を出てすぐのころに、旦那さんが離婚したいと申し出たそうです。
理由は、「君に女性を感じなくなったから」。
奥さんはスラーっとしたとっても素敵な女性ですよ。旦那さんの方がおじいさん風で、それこそ「男性」を感じなかったけれど。でも旦那さんはパリに彼女を作り、そちらへ行ってしまいました。
一方、奥さんも気丈です。自ら事の顛末を友人・知人らに語り、小ぶりなアパルトマンに移って(今までの大邸宅は売却してそれぞれに分割されたらしい)、教会活動も続け、難民受け入れを手伝い、と、相変わらず、街の顔として活躍しています。

昔から知っている夫婦のケース……

若いころから いつもいがみ合っていた夫婦でした。でもその割には子沢山だったりするし、夫婦仲の実情がわからないな、と思っていたのです。
その夫婦が、二十数年経ってついに別れることに。男性側のお父様が亡くなられた後のことでした。離婚など「ありえない」と考える老父が去り、もう気兼ねする人もいなくなったから、別れよう、と。
男性側にはすでに若いガールフレンドがいるとかで、女性側はパニックに陥っているらしいです。怒りなのか、哀しみなのか、それとも不安なのか。

ふと気づくと、わたしが知っているケースは、全て男性側の心変わり。年の頃はわたしとマリアンと同じだわ……。

そんなことを考えていると、
「ミキ、歩いて!」
とマリアンが呼ぶ声がします。気づくとわたしの足は止まり、マリアンの方がずいぶん先の方を歩いていました。
いつもとは逆パターンではありませんか! 自分に苦笑いしながら追いつきます。

「マリアン、アナタの言っていること、一理あるかも……」
と、早速わたしの「気づき」をシェアしようとすると、
「やめてやめて。もう考えないことにする」
マリアンは、顔を前に向けたまま、いつになく速いペースで歩き続けます。

でも、わたしは考える

日本では「結婚と恋愛は違う」というセリフをよく耳にしますが、フランスでは、結婚≒愛なのだと思います。

両家の釣りあいとか、経済的な問題なども潜在下にあるでしょうが、それよりも愛情重視です。愛しているから結婚し、家庭を築く。その後も継続するには「愛ありき」ベースという。

だから愛が冷めたら結婚も終わりというのは自然なこと、という論理になるのでしょう。

もちろん、愛の中には、異性愛や性愛だけでなく、家族愛も、友情も含まれていると思います。

でもマリアンの話やわたしが聞き知っている話では、フランスの男性の方ばかり心変わりしているぞ。もしかして、フランス人男性は異性愛や性愛偏重の人が多いのかしら?

ま、そこら辺は、人それぞれだと思いますし、もしかしたら男性の耳には心変わりする女性の話ばかり入っているかもしれないので深追いはやめておきます。

ただ一つ思うのは、フランスの夫婦というのは、緊張感がある関係だ、ということ。

結婚したのだから、
子どもができたから、
家のローンを一緒に組んだから、
「もう大丈夫」

とはならない関係。

子どもの世話で忙しくとも、
仕事で嵌っていても、
夫の前では女であることを忘れてはいけない?

どうしましょ。結構大変ですよ。

スリリングなる夫婦

結婚したなら、別れたくないです。
だから、存続させようと努力しますよね。
でも、繋いでいるのは「愛」だけ。
ドキドキですよ。スリル満点。
マリアンが、突然不安に駆られてしまうのも、この綱渡り感があるからでしょう。

以前より、レストランで、カップルがいるとついつい見てしまうわたしでした。
フランスの女性は、若い人ならまだわかるのですが、熟年女性でも仕草が実に色っぽくて、感心するというか、不思議だったのですよ。

髪をかき上げる。
コケティッシュに微笑みかける。
頬杖ついた手、上目遣いの視線。
小指を少し嚙んだり。

シルバー世代と呼ばれるような女性でも、そうなのです。
あれも、夫婦というスリリングな関係を存続させるための努力だったのか!
結婚して20年近く経った今ごろになって気づいたわたしです。

また、努力しているのは女性だけではありません。

レストランでのカップルは、男性も、ちゃんと話すのですよ。
うちの夫も、基本的に無口な人で、疲れているときは貝のように口を閉じています。
それでも食事のときや外食時は話します。
相手が目の前にいるのに「無口でいる」というのはある意味甘えというか無礼ですものね。

女性側も、相方さんの話を上手に聞いてあげています。
女性同士だとあんなにおしゃべりなのに、聞き役に回ってあげるのです。

こうやって書くと、「そんな関係、疲れそう」と思うのですが、それをそこまで疲れずに継続できる。それが相性のよい夫婦というものなのでしょう。

夫婦という奇跡

夫婦って奇跡ですよね。赤の他人が出会って、一生を共にしようという前提で絆を結ぶ。すごいこと、貴いことだと思います。

それが壊れる理由は色々あるでしょう。
「女を(男を)感じなくなった」という言葉は、掘り下げると「人間としての魅力が感じられない」ということなのではないかしら。女性性や男性性は性的なことだけではない、と思うんですよね。
あと「束縛」も良くないですよね。相手を縛りたくなる理由は、自分の自信のなさがゆえ、でしょう。

そんな風に考えていくうちに、大切なのは自分を磨き続けことかことか、というクリッシェ cliché に落ち着いてしまいました。
人間性を高め、お互いを刺激し合い、思い合う関係を継続させる、これかな。

マリアンとのウォーキング・セッションでも、このことを伝えなくちゃ。
心身の健康のためにしっかり歩いて、色々語り合い、お互い女を、そして人間を磨こうね、と。
(でも、レストランの熟女を見習って、わたしも「女っぷり」にテコ入れします!)

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