パリの中の日本

パリ暮らし

フランスに来て22年が経ちました。
年を重ねるに連れ、自分の中の日本が乾いていくように感じる時があります。何と言えばいいのでしょう。イメージとしては、わたしの真ん中には日本という大木が根付いていて、枝葉が広がっている。いや「いた」のですが、いつの間にか、葉は枯れ落ち、小枝は折れ、大きな枝や幹の部分は残っているのですが、それが乾いてすかすかになりかかっている、そんな感覚です。

これはコロナ禍の影響で、しばらく帰省していないから、かもしれません。それとも、在仏が長くなり、自分の中のフランスが増えてきたからかもしれません。気づくと日常会話に困ることがなくなり、食事も味噌汁よりもカフェオレが大切に感じるようになっていて……。

そんなときに誘われたのが、八代亜紀さんのコンサートin パリ。エッフェル塔の袂にあるパリ日仏文化文化会館で、あの八代亜紀さんが公演されるというのです。
「行く!」
と飛びついてしまった自分に驚きました。

というのもわたしは、ポップとロックで育った人間。世代的にも演歌にはあまり興味ないはず。でも、確かに八代亜紀さんには以前から惹かれるものを感じていたのもホント。八代さんは、暗い歌を歌っていても演歌につきものの(失礼!)辛気くささがないし、あの輝くような笑顔がすごいなぁと、昔から思っていたのです。

コンサート会場は300人足らずで一杯になるホールですが、満員でした。半分以上はフランス人だったと思います。
第一部では、八代亜紀さんは振り袖で登場。大人世代の日本人なら知っている、「雨、雨、降れ降れ♪」でスタートし、八代さんが生み出したという「リズム演歌」(『おんな港町』など)で観客をノリノリにさせます。振り袖で歌うというのはものすごい体力を消耗することでしょう。その上八代さんは72歳。それでも疲れは一切見せません。

歌の間のトークも笑顔一杯。苦労話すらも「そのお陰でここまで来れたの」とにっこり。コンサートのパンフレットには、「Diva」とありましたが、この言葉の語源である、ラテン語の「神々しい」にという意味にふさわしいDivaの笑みです。

第二部ではブルースやジャズが続き、最後は昭和を代表する曲、「舟唄」です。

「沖ぃの、鴎ぇにぃ、深酒させてョォ♪」

民謡、俗謡、そして兵隊ソングとして口ずさまれた「ダンチョネ節」より本歌取しているという、この「舟唄」。八代さんの歌声が心に染み入り、わたしの乾きかかっている日本という木が生き返っていくのを感じました。乾き掛けた日本人DNAが水を得て、細胞の一つ一つが潤っていく、そんな感じなのです。

コンサートのあと、フランス人の友人に感想を聞くと、”Splendide !”, “Très émouvant !”, “Très beau !” と興奮露わ。日仏の文化の違いを超えて、八代演歌の素晴らしさは伝わったようです。

この日仏文化会館をはじめ、パリでは日本のイベントが頻繁に催されます。食に関しても、昨今は、日本茶、日本酒、お握り、大福、それにどら焼きもフランス人の間で浸透しているし、文学も、モードも、音楽も、日本の文化は幅広く、そして奥深く、フランスで愛されています。

「パリにいる限り、わたしは日本人でいられる。」
そんな安心感を得た夜。
帰り道のエッフェル塔はいつも以上に美しく輝いていました。

byドメストル美紀

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