Byドメストル美紀
今、パリ地方は春休み真っただ中。毎年、この頃になると焦りだします。
何を焦るのか、ですか?
次のバカンス、3か月近くもある夏のバカンスのことですよ!
バカンス大国フランス
もう夏のバカンスを心配するなんて、どうかしている、と思われるかもしれませんが、いやいや、ここはバカンス大国フランスです。
春、夏、秋、ノエル、そして冬と、年間5回(!そんなにあったか、と今さら驚いています)の学校休みがありますが、なかでも夏のバカンスは皆の力が入るところ。何しろ、小学校であれば約2か月、うちの息子たちの中学高校などは、学校がバカロレア試験会場となるため、早めに休みに入るので約3か月あります。
子どもたちにはこの長い夏休みを有意義に過ごしてもらいたいし、大人たちもゆったりと過ごしたい。
そのためなら、多少のしわ寄せがあるとしても仕事は休みますし、普段ケチなフランス人も、お財布の紐を緩めます。
そこまでして、バカンス取る?という呆れるほどの熱量を注ぐのです。
なぜか。
まとまった休みは大切!
日本にいらっしゃる読者の方は、この小見出しに涙されているのではないでしょうか。わたしもかつて日本で仕事をしていたのでよくわかります。まとまった有休なんて簡単に取れないですよね。
でも敢えて続けます。
たとえばわが夫。彼は疲れが顔に出にくいタイプなのですが、過去30年余りに渡る会社勤務の疲労は確実に体の中で積みあがっています。
それが顕著にわかるのは、バカンスに入り一週間経ったころ。顔がむくみ、目の下にクマが出てくるのです。普通逆でしょう? と思うのですが、恒常的に疲れているから、疲れが何層も下に押し込まれているようです。
その疲れがじわじわと上がってくるのが1週目なのでしょう。2週目が終わるころになると、またいつもの顔に戻り、3週目に入ると、表情にいつにない明るさを感じるようになります。
2週間しか休みが取れないことも多いのですが、それでもまあまあ良し。でもできれば3週間取るように心がけているようです。
わたし自身も、3週くらい仕事から離れていると、気持ちがリフレッシュされるなぁ、と感じますので、「最低2週間、でもできれば3週間」というのが、わたしの思うところの「まとまった休み」です。
バカンスの歴史
「そんなこと言っても日本では無理ですよ、国民性の違いですから」、という声が聞こえてきますが、必ずしもそうではなさそうですよ。
というのも、フランスのバカンスが始まったのは意外と近年のことなのです。
一般の人々がバカンスに出かけ始めたのは1950年代後半のことのようです。
それ以前のバカンスは、それは貴族などに限った話で、今のような、総国民あげてのトレンドではなかったのです。
経緯としては、「有給休暇」の一般化が背景にありました。フランスでは、1936年に2週間の、56年に3週間、69年に4週間、そして82年に5週間の連続休暇が法的に認められました。
それに合わせるように、行政や企業による子どものための林間・臨海学校などの施設が作られたり、パリと地中海沿岸までを繋ぐ国道7号線が建設されたり、インフラストラクチャーも整えられていきます。
余談ですが、この国道7号線 La Nationale 7 は、「バカンス国道 Route des vacances」というニックネームがついているんですって。バカンスのための国道まである、さすがフランスではないですか?
バカンスの経済効果、エトセトラ
バカンスという慣習が生まれたおかげで、フランスは地方の市町村が活性したという声も聞いています。
現在のフランスは国際的な観光大国ですが、これは大都市だけでなく地方にも魅力的な街が多いからといえるでしょう。小さな村を訪れると、ちゃんとツーリストインフォメーションセンターがあったり、宿泊施設が幾つかあったりと、街づくりが観光に対応できていて感心すること多々あり、です。
また、数字にできない、間接的な経済効果もあると思います。
バカンスで心身ともにリフレッシュすることで、労働者・従業員のやる気や生産性が高まるというのは想像たやすいこと。
ただわたしは、それ以上の恩恵があるように感じています。何というのでしょうか、「バカンスがあるから」みな何とか踏ん張っていて、乗り越えられている、というか。
バカンスが国民一人一人の心に余裕をもたらしているおかげで、このカオスで n’importe quoi (何でもあり)なフランスも、何とか回っているような気がするのです。
さらに横道に逸れて突飛なことをいってしまうと、日本が危機状態に陥っている少子化問題。
政府は「異次元なる取り組みを」、と謳っているようですが、異次元まで飛ばなくてもいいので、まずはバカンス制度を採り入れたら、それなりの効果が上がるのではないか、と考えたりします。
毎日働き詰めでクタクタだったら、「子供欲しいな」などと思えないのは当然でしょう。子育てする財力以前に、そのための時間も体力も見込めないのですから。
バカンスを取って、心も体も休養を取れたなら、もっと自分の人生について考えたり、家族を持つことについて考えたり、子育ても頑張ってみたいな、と思う人も出てくるのではないでしょうか。
少子化は一つの例でして、日本にフランスのようなバカンス・スピリッツが根付いたら、過労死、自殺、いじめ、引きこもりなど、多くの社会問題が改善されるのではないか、と、結構真面目に考えています。
いえ、フランスにもこれらの社会問題はあるのは承知していまして、バカンスが全てを解決する、とは言わないのですが、少なくとも、何らかの変化は期待できる、と思うのです。
Vacances=自由なこころ
最後に、フランス語のうんちくをひとつ。
フランス語のvacancesはラテン語のvacare(ヴァカーレと発音します)という動詞から派生した言葉です。Vacareは、空白になる、とか、自由になる(空白があるということは、受け入れる余裕があるということから)という意味。
素敵ではありませんか? Vacances=自由になる時間。
この夏は、ぜひフランス人になり切って、自由に、ゆったりと楽しんでくださいませ。
おっと、その前に、今はゴールデンウィークですね!
Bonnes vacances & Bonne continuation!