あまり知られていないフランスの教育制度① プレパとは

パリ暮らし

by ドメストル美紀

身内の話で恐縮なのですが、高校三年生のわが長男、今、進学に向け、佳境を迎えています。

……こう書くと「そうか受験か。寝る間も惜しんで勉強しているのね」と思われるかもしれませんが、そんなこともなく。

エリート主義、学歴主義のフランス。「いい学校」に進むことは人生の上で大切であり、今が勝負の時なのですが、長男も、その周辺を見ても、みんな睡眠はしっかり取っているし、バカンスも楽しんでいます。

ここにおいても、フランスはやっぱりフランスなのです。

さらーっとフランスの学校制度を紹介

フランスの学校制度、まず就学年数は、幼稚園3年、小学校5年、中学4年、高校3年。
途中留年・休学がなければ、高校を卒業時は18歳になる年。ここは日本・米国と同じですね。

ちなみにフランス語だと、幼稚園はécole maternelle、小学校はécole élémentaire、中学はcollège、高校はlycée、となります。

高校のあと、就職組、専門学校組、大学進学組に分かれるのも日・米と同じですが、フランスでは、もう一つ選択肢があります。

それは、準備学校 classes préparatoires aux grandes écoles(通称プレパ) に進み、グランゼコールと呼ばれる高等教育機関を受験する、というフランス独特の進路です。

グランゼコールとは何ぞや?

フランス好きな皆様ですから、グランゼコールという言葉は耳にされたことがあるでしょう。もう名前がスゴイですよね。Grandes écoles、偉大なる学校たち、ですよ。

グランゼコールは、元をたどると高級国家公務員を養成するべく作られた高等機関だったそうです。高級向けの高等な機関、ゆえにGrandeなるécoleということらしいです。

フランスは、原子力や宇宙、航空、科学技術といった理系分野を戦略的分野として奨励してきたこともあり、グランゼコールは技術系が多く、その他には、高級公務員養成ということから政治・経済・経営分野の学校もあります。

ただ、今ではグランゼコールと呼ばれる学校にも、難関校から、それほどでもない学校までいろいろあり、必ずしも「偉大」ではないとか。

準備学校プレパって何?

順序が逆になりましたが、グランゼコールに入るためには、準備学校であるプレパに入らなくてはなりません。うちの長男も大学だけでなくプレパにも志願しているとかで、それなのに、母親はこのプレパなるものの位置づけが分からなくて混乱しています。

高校に属しているというけれど、すべての高校にプレパ学級があるわけでもない。大学とも連携しているというけど、でもプレパを終えただけではディプロムはもらえない。全くもってはっきりしない存在です。

理系のプレパにはLouis le Grandを筆頭に難関校も多いとか。ふむふむ。「そういえばHenri IVという学校も聞いたことあるけれど」と口を挟めば、「それは文系だよ」と、理系の長男は呆れて目を回します。

プレパの2年間はがむしゃらに勉強しなくてはならない、とか、ゆえにノイローゼになる生徒も多い、と聞き、「プレパじゃなくて大学でいいんじゃないの?」と口を挟めば、「大学も受けるけど、理系においては、多くの大学はプレパよりレベルが低いんだよ」とは息子の言葉。

フランスには「エリート」=「グランゼコール卒」=「理系」という一つの認識があり、逆にいうと、理系を選択したのなら、この等式を踏襲しなくてはならない。このかつての価値観も、少しずつ変化のきざしを見せているのですが、まだ呪縛として残っていて、ゆえに「プレパ志向」となるようです。

プレパも大学も、入学するにあたって試験はなく、内申とバカロレアの点数、そして志望動機を書いたレターで決まるそうです。内申は、該当科目の平均点が〇×点以上必要だとか、バカロレアで失敗すると大変だ、とか、ママ友たちから色々と情報が入ってきます。

ほとんどの大学・プレパの申請・合否発表は教育省が作ったウエブ・ポータルを通して行われます。3月9日にはサイト上で志望校リストを固める締め切りがありました。願書の「申請」ではなくて、「固める」、です。志望校を選んでクリックするだけ。「操作完了」にあたってコンファームされるわけでもない、というのですから、ほんと、よくわかりません。

バカロレアは、早くも3月下旬に該当科目の試験があります。

そう、3月は高3にとって大変な月なのです。

フランスという海

なので、長男もかなり真面目に勉強しています。がんばっているとは思います。

でも、ですよ。

時折、街に遊びに行きますし、趣味のピアノの時間もしっかり確保している。冬休みにはスキーにも行きましたし。

これは息子に限ったことではなく、彼の仲間は割と真面目な子たちなのですが、彼らも一緒につるんでいますから、これはフランスの高3の一般的な姿なのでしょう。

わたしの大学受験の時と比べると、ライフ・ワーク・バランスがしっかり取られていて、「そんなんでいいの?」と不安になることも。

でも、いいんですって。「やることやっているんだし、僕のやり方で習得しているよ」と。
それが心配なのよ。「ママのときは睡眠時間削って勉強したけど」としつこく食い下がれば、
「ここはフランスだし、時代が違うよ」とピシっとシャットアウトされます。

海外で子育てすると、自分が経験していないことを子どもが経験するので、母は「お役に立つ」ことができない。それがもどかしいと思うときもありましたが、一方で、「所詮、このコの人生なのだから、彼が舵をとるしかないよね。ここの海、わたし知らないし」と諦めがつけやすくもあり。

もう一度学校制度

少し補足しますね。

高校後の進学、プレパ+グランゼコールの場合は、プレパに2年在籍し目指すグランゼコールの試験を受けます(専攻・学校によって例外あり)。

無事合格したらグランゼコールで3年間就業し、卒業すると修士号Masterを 取得できます。

プレパだけで終わってしまうようなことがあれば、各校地元の大学とペアリングされているので、そこに編入し、足りない単位を取れば学士Licenceをもらえるそうです。

ちなみに、フランスの大学universitéも、学士課程は3年(日米より1年短い)、修士2年なので、スムーズに終われば、プレパ+グランゼコールと同じ就業年数となります。

巣立ちのとき

ご存じのように、フランスは、秋から新学年がスタートします。長男は9月から、どの地で、どの大学、もしくはどのプレパで新生活を始めることになるのか、興味津々です。

フランスでは、高校卒業したら家を出るもの、とされています。大学・プレパの寮に入るか、学校近くに下宿するのです。

「ママも寂しくなるわ」とlarmes de crocodile(ウソ泣き)を浮かべると、「大丈夫だよ、第一志望はすぐそこの学校だから、家から通うし。その方が安上がりでしょ」と息子。
第一志望に入れると信じている、その能天気さだけは、わたしの息子だわ。

Bon courage!と苦笑いする母でした。

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