フランスの違法ディナーにみるルールの概念 Les restaurants clandestins

フランス今週の時事コラム

ここ数日、有名シェフを含めたセレブたちの違法ディナー疑惑が話題となっている。発端はM6チャンネルが隠しカメラを使い放送した違法食事会の潜入ルポ。コロナ禍でレストランが閉鎖を余儀なくされるなか、名のあるシェフによる一人数百ユーロのコースメニューが、パリのハイソな地区にあるナポレオンファン・セレブの邸宅で定期的に振る舞われているという内容。

同様の催しに現職の大臣が参加したとの噂もたち、シェフや主催者が警察に勾留されるなど、先週のメディアの話題を一時独占した。

このような違法食事会違法レストランはこれまでも複数存在すると推測されていたが、この件をきっかけとして、ここ数日 あちこちで ルール違反のレストランの摘発が相次いでいる。

エイプリルフールだったと言い訳する闇レストランのセレブ主催者

この違法レストラン、フランス語では restaurant clandestin と呼ばれている。今日はこの「clandestin(クランデスタン)」という形容詞に注目しよう。

この話題を日本語のニュースで検索すると大概「違法ディナー」や「違法レストラン」との見出しが見つかる。フランスでは昨年10月よりレストランの営業が禁止されているため「違法」であることには間違いはない。

ただ、仏語の clandestin違法 とは微妙に違う。「違法」や「不法」に対しては 法律に反する という意の 「illégal」という言葉がちゃんと存在する。が、フランス的感覚でずるいだけ」の事柄は「違法(illégal)」とは呼ばないRestaurant clandestin をより忠実に訳すなら 闇レストラン。そこには確固とした咎めの意思はなく、「うまくやりやがって」という羨望の念さえ垣間見える。そこは白黒ではないグレーゾーン、アングラの境地…

Clandestin を名詞として使うと「密航者」や「隠れ住む者」の意となる。昔、汽船などにひっそり乗り込んで海を渡る者のイメージと連携していて、なぜか憎みきれない。また、現在でもこの国に多く存在する「不法移民」や「不法滞在者」はフランス語では un immigré clandestin と呼ばる。四角く言ってもせいぜい un immigré en situation irrégulière = イレギュラーな状況にある移民、つまり「今は基準外れだが、そのうち…」という含みが感じられる。日本語の「不法移民」に対応する un immigré illégal(法に違反した移民)という表現は滅多に聞かない。

要は、闇レストランにせよ密入国にせよ、フランスの言葉の選び方から判断すればそこに審判の意図は感じられない。悪賢い者に対するやっかみは感じても、糾弾には至っていない気がする。フランス映画さながら、善悪の境界線は霞んでいる。同じ立場だったら… または もっと度胸があれば… 自分だって同じことをしているかもしれない …  所詮、人間だから、とでも言いたげに。

by ambi(パリあんび)

パリ北郊の「闇レストラン」摘発の様子。62人が参加していた。
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