ワクチン接種に至るまで。自力で漕ぎ着ける国、フランス。Se débrouiller !

フランス今週の時事コラム

臨機応変。聞き慣れた四字熟語だが、フランスに住むと常に求められる能力だなぁ~と実感するのでは?一般的には、フランスは先進国で、社会福祉も充実し、国民もハッピーに暮らしているイメージだと思う。確かにそのとおりなのだが…

一言でいえば かゆいところに手が届かない 国。何事も一筋縄ではいかない。不測の状況に応じてその都度対応するしかない。様々な制度が存在し、各種サービスを供給するシステムがありながら、利用に至るには道は険しく、諦めずに頑張る必要がある。

数日前、ワクチンの予約をボランティアで代行する75歳の夫婦の話題をニュースで見た。フランスでは昨年末から始まっているコロナワクチン接種。接種を1回受けた人数も現時点で1200万人を超え、遠目にはそれなりに順調に進んでいる。

しかし。自分または家族のためにワクチン予約を試みた経験のある人はわかるだろう。接種対象年齢であっても電話はつながらず、政府と提携した診療オンライン予約サイトでも空きはごく稀。しかも、接種会場を一軒一軒しらみ潰しにチェックしなくてはならず、いつまで経っても予約の取れない年配者が続出。4ヶ月経った今も状況は変わらない。

とまぁ、フランス滞在が長い者にとっては驚きもしない事態ではあるのだが、このようなシチュエーションで頻繁に使われるフランス語が se débrouiller問題解決のため自力で何とかする、という意味の動詞。

Débrouille-toi ! 自分で方法を見つけなさい! Ah, Madame, il va falloir vous débrouiller… マダム、色々試してみるしかないですね… の類のフレーズは何度聞くことか。

ワクチン予約をボランティアで代行するロゼットさんとフランソワさん夫妻

この、フランス式問題解決の一環としてボランディアを買って出たのがニュースの老夫婦というわけだ。土日も休まず、診療オンライン予約のプラットフォーム Doctolibに昼夜ふたりで張り付いて、町内に住む予約の取れない人々のために予約を代行しているという。画面を更新しながらひたすら待ち、空きが出たら即予約。「魚釣りのようだよ」と夫のフランソワさんは言う。

これまで800人あまりの予約を取り、感謝の言葉を糧に作業を続けているという。今では、患者のために予約を取りたい地元の医師や、市役所からも依頼が来るという。美談ではあるものの、国をあげて今一番力を入れているはずのワクチン接種がこんな状況で良いのだろうか。

もっと大規模な予約援助ボランティアも台頭している。Vite ma dose ! (注射を早く!)という名のプラットフォーム24歳のデータ・サイエンティスト Guillaume Rozier を中心とするチームが作った、予約可能な最寄りの接種センターを一括で検索できるサイトで、政府の至らない部分を穴埋めする形で les débrouillards 自力で頑張る人々 / うまく立ち回る人々 になれない人たちを援助している。この話題は海を渡り、2日前にはなんと米ニューヨーク・タイムズ紙にも取り上げられたほど。

コロナの情報を広く配信するため、わかりづらい政府のコロナ関連データを毎日集積してグラフ化する作業(Covid Tracker)を1年前から行っている、まったく見上げた若者たちだ。他にも、医師らが作った待機リストプラットフォーム、その日のうちに使いきれなかったワクチンを無駄にしないために年齢に関わらず登録できる Covidliste など、行政の段取りの悪さを補う形のイニシアティブも話題となっている。

不備だらけでも、se débrouiller することに慣れた人々のおかげで何とか成り立っている様子のこの国、この完璧ではない部分が愛嬌なのかな(いちいち大変だけど)。

ものしりコーナー:
Système D (システム・デー)持ち合わせの手段や道具を用いて問題に対処する方策。D は Débrouille の頭文字。

by ambi(パリあんび)

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